上殿皮神経障害の概要
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**上殿皮神経(SCN)は胸腰椎の後枝(主にT12–L3、個人差あり)**から出る皮神経で、腸骨稜(骨の縁)を越える所で胸腰筋膜と骨性トンネルを貫通して殿部上外側の皮膚感覚を支配します。
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この貫通部で神経が擦れたり癒着すると、腰背部〜殿部上外側の限局痛(しばしばピリッとする表在痛)が出現。画像では写りにくく、“原因不明の腰痛”扱いで見落としがちです。
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推定頻度は腰痛患者の約2%前後。坐骨神経痛に比べ下肢遠位への放散は乏しい(あっても大腿外側上部までが多い)。
典型的所見(ベッドサイドの要点)
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圧痛点:後正中線から約7–8 cm外側、腸骨稜直上(とくに中間枝・外側枝)。
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Tinel様サイン:その部をタップ・押圧で表在性の放散痛。
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誘発動作:体幹伸展・回旋、ベルトやリュックの締め付けで増悪しやすい。
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神経学的脱落(筋力・腱反射)なし。感覚は殿部上外側に限局。
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鑑別:仙腸関節障害、腰椎椎間関節性疼痛、L5・S1神経根症、上殿皮神経以外の皮神経(中殿皮神経)障害、上殿神経(運動神経)障害、梨状筋症候群 など。
診断の進め方
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問診:殿部上外側の限定痛/締め付けで悪化/坐骨神経痛ほど下方へ広がらない。
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触診:腸骨稜上の7–8 cm外側に点状の強い圧痛。皮膚ズレテストで過敏。
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除外:股関節・仙腸関節テスト、腰椎神経根サイン(SLR 等)を確認。
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診断的ブロック:圧痛点直下に局所麻酔±少量ステロイド。即時に痛みが有意軽減すれば支持所見。
画像(MRI/エコー)は主に他疾患除外やブロックのガイド目的。
保存療法(まずはここから)
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負荷回避:ベルト・腰回りの圧迫を避ける/長時間の体幹伸展姿勢を減らす。
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薬物:NSAIDs、神経障害痛に準じた鎮痛を短期で。
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徒手・運動
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胸腰筋膜の滑走改善:胸腰筋膜〜腸骨稜周囲の皮膚・筋膜モビライゼーション(皮膚の横ズレ、軽い牽引、カッピング等も可)。
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局所の軟部組織リリース:脊柱起立筋・広背筋付着、臀筋膜の**方向性スライド(上下・左右・斜め)**で痛みの減衰点を探し数十秒保持。
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セルフリリース:テニスボール等で腸骨稜直上の痛点を回避しつつ周囲を緩める(直接強圧は×)。
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姿勢・動作:ヒンジ動作指導(腰で反らない・胸郭と股関節で動く)、コア・中殿筋の軽負荷エクサで過伸展代償を減らす。
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神経ブロック:外来で反復ブロックを数回(数週おき)。効果が続けばそのまま保存で経過観察。
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(施設により)高周波熱凝固/パルスRFを用いる選択肢も。
手術(まれ・難治例)
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神経剥離・減圧(神経解放術):胸腰筋膜の貫通部を顕微鏡下に開放。局所麻酔+神経刺激で責任枝を特定し、不要な切離を回避。多くは**小切開(約5 cm)**で実施。
リハの実際(現場の手順例)
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圧痛点の同定→周囲筋膜の方向感受性テスト(どの方向に皮膚・筋膜をずらすと痛みが軽くなるか)。
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楽になる方向へ数十秒保持×数セット、痛みの閾値が下がったら骨盤帯の軽い安定化訓練(サイドライイングでクラム・ショートサイドブリッジ等)。
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自宅では圧迫を避ける装い+1–2分の皮膚スライドを1日数回、症状増悪動作の修正を徹底。
よくある質問(Q&A)
Q1. 坐骨神経痛とどう見分ける?
下肢遠位までの放散や神経学的脱落が乏しく、腸骨稜上の点状圧痛で再現でき、ブロックで即時改善しやすい点が手がかりです。
Q2. 画像で分かりますか?
多くは映りません。臨床所見+診断的ブロックが決め手です。
Q3. どれくらいで良くなりますか?
保存療法で数週間で改善する例が多いですが、個人差があります。再発予防は圧迫回避と姿勢修正が鍵です。
Q4. マッサージは効きますか?
殿筋そのものの揉捏だけでは不十分。胸腰筋膜〜腸骨稜の貫通部周囲の滑走改善がポイントです。
Q5. 手術は必要?
難治例に限る選択肢です。ブロックで有効なら多くは保存でコントロール可能です。
最終更新:2025-10-05
