上腕二頭筋長頭腱炎の概要
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上腕二頭筋は二つの起始をもつ筋。
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長頭:肩甲骨関節上結節から関節内を通り、**結節間溝(大結節と小結節の間)**で方向転換して上腕骨前面へ。
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短頭:肩甲骨烏口突起から起こる。
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作用:肘屈曲と前腕回外が主。長頭は軽度の肩屈曲にも関与、短頭は水平内転に寄与。
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長頭腱に炎症が起こりやすい理由:結節間溝の“腱プーリー”部(滑車部)で角度が変わり摩擦・圧縮応力を受けやすいから。
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関連病態:腱板断裂(とくに上方断裂)や前上方への骨頭移動を合併しやすい。
起こりやすくなる背景(メカニズム)
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肩甲骨の外転/前傾(プロトラクション)、小胸筋短縮、後方関節包の短縮、後方腱板(棘下筋・小円筋)タイトネス、肩甲下筋や下部僧帽筋・前鋸筋の機能低下
→ 上腕骨頭が前上方へずれ、長頭腱と結節間溝の擦れが増大。 -
反復動作(重量物の持ち運び、投球・上肢反復作業)で過負荷。年齢を問わず起こるが、中高年やオーバーヘッド動作の多い人に多い。
主な症状・所見
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結節間溝の圧痛(肩前面の一本溝を指でなぞると痛い)。
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抵抗下肘屈曲・前腕回外、肩屈曲保持で収縮時痛(例:ドアノブを回す、物を持ち上げる)。
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炎症が強いと食事動作でも痛いことがある。
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腱板病変併存では挙上時の引っかかりや夜間痛を伴うことも。
鑑別と関連疾患
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腱板断裂:筋力低下・挙上時痛・夜間痛が目立つ。
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SLAP損傷(Superior Labrum Anterior to Posterior):長頭腱付着部の上方関節唇剥離。投球での「ピールバック」や牽引で発生。クリック感や深部痛。
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参考テスト:O’Brien、Biceps Load Ⅱ など(本文では概念の整理のみ)。
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スクリーニングテスト
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ヤーガソンテスト:肘90°屈曲・前腕回内位→抵抗に抗して回外。結節間溝痛で陽性。
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スピードテスト:肩軽度屈曲・肘伸展・前腕回外位で下方抵抗に抗して保持。結節間溝痛で陽性。
※ 陽性=長頭腱炎を支持。ただし単独での確定は不可。他所見と合わせて判断。
保存療法(基本はこれで改善)
1)痛みのコントロールと負荷管理
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炎症期は相対安静。痛みの出る可動域や動作(外旋位での肩屈曲、反復回外・肘屈曲)を回避。
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作業・スポーツは痛みゼロ〜違和感レベルに調整。必要に応じて一時的に吊り下げ(スリング)やテーピング。
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薬物(NSAIDs)、腱鞘内ステロイド注射は医師判断で。
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経過不良・断裂併存・**不全断裂>50%などは鏡視下腱切離(テノトミー)/腱移行固定(テノデーシス)**を選択。
2)姿勢・スキャプラ(肩甲帯)再教育
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小胸筋のリリース&ストレッチ → 肩甲骨の過外転・前傾を是正。
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肩甲下筋、下部僧帽筋、前鋸筋の協調性を高め、上腕骨頭を前上方へ押し出さない運動学を再建。
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後方関節包ストレッチ(横方向内転ストレッチ、Sleeper stretch など)で骨頭前方化を抑制。
3)軟部組織ケアと筋機能
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上腕二頭筋腹〜腱の軽圧マッサージ、腱走行(結節間溝)周囲の滑走改善。
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前腕回外・肘屈曲の****遠心トレーニングは痛みが落ち着いてから少量高頻度で。
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腱板(棘下・小円・肩甲下)と肩甲帯筋の段階的強化で代償運動を減らす。
セルフケアのコツ
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痛みが鋭い日はアイシング10–15分、落ち着いてきたら温熱→ストレッチ→軽い筋トレの順。
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ドアノブ回し・荷物運搬は体幹ごと近づけ、肘を体側に寄せててこの負荷を減らす。
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就寝時は患側を下にしない、枕を少し高めにして肩の前滑りを抑える。
よくある質問(Q&A)
Q1. どのくらいで良くなりますか?
A. 軽症なら数週〜数か月で改善。腱板病変併存や作業負荷が高いと長期化。負荷管理+理学療法の継続が近道です。
Q2. 動かした方が良い?安静?
A. 痛みの出る方向は避けつつ、痛みの出ない範囲で可動は保つ。完全安静は硬さ・機能低下を招きます。
Q3. 注射は必要?
A. 炎症と疼痛が強く日常生活が困難な場合は腱鞘内ステロイドが有効なことがあります。再発を防ぐには姿勢と運動再学習の併用が必須。
Q4. SLAP損傷との違いは?
A. どちらも長頭腱が関与しますが、SLAPは上方関節唇の剥離。深部の引っかかりやクリック、投球終盤の痛みが目立ちます。検査・画像で鑑別します。
Q5. 手術はいつ考える?
A. 保存療法で3–6か月改善乏しい、または腱の不全断裂が大きい/腱板高度損傷併存などで検討(テノトミー/テノデーシス等)。
最終更新:2025-10-06



