五十肩に対する関節モビライゼーションの効果

要点サマリー

  • 拘縮期以降の可動域制限の主因は関節包の縮小(線維化)。主成分はコラーゲン

  • コラーゲンの改変・置換は長期適応(半減期は数百日規模の報告もあり)、1回施術の即時的構造変化は期待しにくい

  • ただし、疼痛抑制・粘弾性のクリープ・筋攣縮の解放・運動制御の改善などにより、その場で可動域が広がることはある(=構造変化とは別要素)。

  • 改善戦略は、低負荷・反復・長期の蓄積(頻回×継続)家庭での自動運動が中核。


なぜ「すぐには変わらない」のか(構造の話)

  • 拘縮期の関節包は、炎症→線維化→肥厚・短縮という器質的変化が進行。

  • 温熱は痛み・血流・粘性低下に寄与して動きやすくするが、臨床で安全に使う温度・時間ではコラーゲン架橋を即座に解くレベルの改変は困難

  • 関節モビライゼーションも同様で、1回で構造を作り替える介入ではない

  • したがって、「頻回×継続」と時間経過が不可欠。

補足:コラーゲン代謝は組織・個体差が大きく、半減期は“300日前後”など幅があります。臨床では長期スパンで計画するのが現実的。


それでも“その場で”変わる理由(機能の話)

即時にROMが伸びるときは、下記の機能的要素が効いています。

  • 疼痛抑制:ゲート制御、期待・注意の変化、恐怖回避低下

  • 粘弾性のクリープ/応力弛緩低負荷・持続で一時的に伸びやすくなる

  • 筋攣縮の解放:呼吸・等尺→弛緩、求心化で防御性収縮が下がる

  • 運動制御肩甲胸郭の貢献や代償の是正で**端範囲の“使い方”**が良くなる

“即時効果=構造が治った”ではない点を説明しつつ、**維持手段(ホームエクササイズ)**に必ず接続。


実務プロトコル(目安)

施術日の流れ(拘縮期以降)

  1. 疼痛・攣縮の鎮静:温罨法(安全温度)、呼吸指導、軽い等尺(外旋・下制方向など)

  2. 関節包方向のモビライゼーション

    • 低〜中グレードから、最終域近傍は低負荷・長めの保持(LLLD)でクリープ狙い

    • 痛みを許容量内に(防御誘発は逆効果)

  3. 可動域の“獲得→使用”

    • 自動・自動介助(滑車、テーブルスライド、スティック外旋)

    • 肩甲骨の上方回旋・後傾・外旋の再学習

  4. セルフ処方の確認:量(日2–3回)、回数(10–15回×2–3セット)、**“痛みは軽度不快まで”**を明確化

週あたり頻度と期間

  • 外来なら週1–2回+在宅が現実的。

  • 数週〜数か月単位ROM曲線の漸進を追う(急性期・痛み優位からの移行期を除く)。


在宅メニュー(例)

  • 外旋自動介助:脇下にタオル、**0–20°**から痛み軽度で往復10–15回

  • 前方挙上テーブルスライド:骨盤後傾になり過ぎないよう胸郭を保つ

  • 肩甲骨モーション:壁スクレイプ(前鋸筋)/肋骨に沿った後傾・外旋意識

  • 温罨法→運動→クールダウンの順序で“動ける窓”を拡げる


効果判定と期待値のすり合わせ

  • 短期目標:夜間痛・安静時痛の軽減、可動時痛の閾値上昇、端範囲の恐怖低下

  • 中期目標外旋・外転の端範囲の微増(例:2–5°/2週など施設基準で)

  • 長期目標:ADL/仕事動作の再獲得(髪結い、背中手回しなど)


注意すべき“赤旗”

  • 安静時の強い発赤・腫脹・熱感/夜間持続痛の悪化

  • 頚椎由来痛、神経症状(しびれ・筋力低下)

  • 外傷歴や石灰沈着性腱炎の急性増悪が疑われる痛み
    → 医師評価を再依頼し、疼痛優位期は“痛みの窓”を広げる介入へ一時シフト


まとめ

  • 構造(コラーゲン)は長期、機能は短期でも動く。

  • 頻回×継続×低負荷長時間+**“獲得ROMをすぐ使う”**のサイクルが鍵。

  • モビライゼーションの価値は即時効果より“積み上げ”にある。ただし即時の可動改善を足場在宅運動へ橋渡しできれば、治療効果は大きく伸びる。


よくある質問(Q&A)

Q1. 温熱だけでコラーゲンを“その場で”変えられますか?
A. 臨床で安全に使う条件では困難。 ただし痛み軽減と粘性低下で動きやすい窓は作れます。

Q2. モビライゼーションは即時効果がない?
A. 構造的改変は一回で期待しにくいですが、疼痛・攣縮・粘弾性の変化でその場のROM改善は起こり得ます。継続で真価が出ます。

Q3. どのくらいの頻度で通えばいい?
A. 週1–2回+在宅が現実的。数週〜数か月を見越し、二週毎などで客観指標(外旋角など)を追跡。

Q4. どの強さまで伸ばしていい?
A. 軽い張り感〜中等度痛みで呼吸が止まる強度はNG(防御性収縮で逆効果)。

Q5. 痛みが強い日は?
A. 痛みの窓を広げる介入(温罨法・呼吸・等尺)を優先し、最終域の伸張は回避。痛みが落ち着く期間に可動域拡大を図ります。


最終更新:2025-10-09