加齢や運動不足で衰えやすい筋肉と衰えにくい筋肉

要旨:不活動や加齢で落ちやすいのは、姿勢を支える抗重力筋(伸筋群中心)。一方で拮抗する筋は相対的に保たれやすい傾向があります。臨床・セルフケア両面で「どこから落ちるか」を押さえて、無駄なく鍛えましょう。


抗重力筋はとくに衰えやすい

  • 立位・歩行で常時トーンを求められる筋は、寝たきりや活動量低下で一気に使用量がゼロに近づき、速やかに萎縮します。

  • 代表:脊柱起立筋、大腰筋、大殿筋、中殿筋、大腿四頭筋、下腿三頭筋、前脛骨筋、僧帽筋上部、広背筋、上腕三頭筋 など。

  • 一方、拮抗筋(屈筋群や表層のプッシュ系)は相対的に保たれやすいことが多いですが、機能低下(持久・協調性の低下)は起こる点は誤解しないでください。

衰えやすい/保たれやすい筋(臨床目安)

衰えやすい(主に抗重力・伸筋系) 保たれやすい(相対的)
僧帽筋上部 胸鎖乳突筋
広背筋 大胸筋
上腕三頭筋 上腕二頭筋
脊柱起立筋群 腹筋群(相対的)
大腰筋 腸骨筋
大殿筋 腸骨筋/股屈筋群前部
中殿筋 内転筋群
大腿四頭筋 ハムストリングス
下腿三頭筋(腓腹・ヒラメ) 前脛骨筋

使い分けのコツ

  • 姿勢保持に直結二関節筋伸筋群は要注意。

  • 同じ筋群でも役割が違う例:大腰筋は落ちやすいが、腸骨筋は保たれやすい。両者を「腸腰筋」と一括りにせず評価・運動処方を。


高齢者姿勢と筋の長さ関係

  • 典型的な高齢者の前屈み姿勢=衰えやすい筋が伸張位で弱化/保たれやすい筋が短縮位

  • 若々しい立ち姿に戻す近道は、衰えやすい筋を狙って鍛えること。


トレーニング処方の要点(安全・効率重視)

  1. 最優先は下肢・体幹の抗重力筋

    • 例:

      • 大殿筋:ヒップヒンジ/ブリッジ

      • 中殿筋:サイドレッグレイズ・クラムシェル

      • 大腿四頭筋:椅子立ち(Sit-to-Stand)

      • 下腿三頭筋:カーフレイズ(つま先立ち)

      • 脊柱起立筋:胸椎伸展エクササイズ+ヒンジ動作練習

      • 大腰筋:マーチング(立位・坐位の股屈曲保持)

  2. 二関節筋の短縮を管理

    • 長期臥床では腓腹筋短縮→底屈拘縮に注意。足関節背屈の他動・自他動運動を毎日

  3. 可動域→筋力→持久の順で積み上げ

    • まず痛み・関節可動域の確保、次に中等度負荷(RPE 5–6/10)で8–12回×2–3セット、週2–3回。

  4. 姿勢・動作の翻訳

    • 「鍛える」=日常動作を改善するための練習。立ち上がり・階段昇降・片脚立位をプログラムの中核に。

  5. 腹筋の扱い

    • 体幹屈曲の反復(クランチ)だけでなく、反動を活かす全身運動(例:ヒンズースクワット)→その後コア系の順が実践的。


クリニック・在宅でのクイック処方例(15分)

  • 可動域:足背屈30秒×3、股関節伸展・外転ストレッチ各30秒×2

  • 筋力:Sit-to-Stand 10回×2、クラムシェル15回×2、カーフレイズ15回×2

  • 動作練習:片脚立位(手すりあり)20–30秒×2/側方歩き5m×2

  • 頻度:週3–4回+こまめな立ち上がり回数の増量


よくある質問(Q&A)

Q1. 何歳でも筋肉は本当に太くなる?
A. はい。高齢でもトレーニング刺激に対する筋肥大・筋力増加は起こります。量より継続が鍵。

Q2. 週何回が最適?
A. 2–3回/週が目安。同一部位は48–72時間の回復を確保。

Q3. まず何を鍛えれば転倒予防に効く?
A. 中殿筋・大殿筋・下腿三頭筋・前脛骨筋。これに片脚立位練習をセット。

Q4. 臥床が長かった患者で最優先は?
A. 足関節背屈の回復(腓腹筋短縮対策)とSit-to-Stand。歩行再開が早まります。

Q5. 大腰筋と腸骨筋はどう使い分けて鍛える?
A. 股屈曲**高角度保持(マーチング)**で大腰筋、軽角度・持続収縮で腸骨筋の比重が高まりやすい——別物として評価を。


最終更新:2025-10-06