正中神経麻痺のリハビリ治療

正中神経麻痺のリハビリ治療について解説していきます。

正中神経の概要

正中神経(C5-T1)は、腕神経叢(C5-T1)の外側神経束と内側神経束の合流部(腋窩付近)から起こり、上肢前面を下行していき、手掌の手根骨部あたりで総掌側指神経に移行します。

上腕部では、上腕動脈の外側(上腕二頭筋の内側)を走行し、上腕中央部で上腕動脈と交差し、上腕遠位部は上腕動脈の内側を走行して肘窩に至ります。

前腕部では、円回内筋の上腕頭と尺骨頭の間を通過して前骨間神経【筋枝】を分岐し、深指屈筋や長母指屈筋、方形回内筋を支配します。

また、正中神経は前面を正中線に沿って下行し、前腕の下部で掌枝【皮枝】を分岐します。

手掌部では、手根管内を通過して母指球筋への母指球枝(反回枝)【筋枝】を出して、3本の総掌側指神経に移行して正中神経は終了します。

総掌側指神経はそれぞれが各指の固有掌側枝神経【皮枝】になって、母指側3.5本の指の皮膚に分布します。

1.前面から見た上肢の神経 2.後面から見た上肢の神経
正中神経 正中神経後面

正中神経系の支配筋肉

正中神経系(正中神経から分岐する神経も含めた)が支配している筋肉は以下になります。深指屈筋と短母指屈筋は正中神経との二重神経支配です。

正中神経 前骨間神経 反回枝(母指球筋枝)
円回内筋 深指屈筋 第1,2虫様筋
橈側手根屈筋 長母指屈筋 短母指外転筋
長掌筋 方形回内筋 短母指屈筋
浅指屈筋 母指対立筋

正中神経の知覚領域

前腕下部で分岐した掌側【皮枝】が手掌の母指側2/3の皮膚を支配します。

また、手根部で総掌側指神経に移行した後は、各指の固有掌側指神経に移行して母指側3.5本の指の皮膚を支配します。

前腕に位置する神経の支配領域
正中神経の支配領域

正中神経の主な絞扼部と障害名

絞扼部 名称
円回内筋部 円回内筋症候群
浅指屈筋起始部 前骨間神経症候群
手根管 手根管症候群

円回内筋症候群

正中神経は前腕部にて円回内筋の上腕頭と尺骨頭の間を通過しているため、円回内筋に過度な緊張があると正中神経を圧迫します。

そこで正中神経麻痺が起こった状態を円回内筋症候群と呼んでおり,障害部以下の麻痺が起きるため、前骨間神経や反回枝まで障害は及びます。

仕事やスポーツなどで同じ動作を繰り返し行っている患者では、上腕二頭筋腱膜の肥厚や円回内筋に炎症が起きている場合があります。

臨床症状としては、前駆症状として肘から前腕の疼痛が起こり、その後に運動麻痺が生じ、母指IP関節と示指DIP関節の屈曲が障害されます。

前骨間神経症候群

明確な定義は難しいのですが、浅指屈筋の過度な緊張が主な原因となって正中神経を絞扼している状態を前骨間神経症候群と呼びます。

浅指屈筋は円回内筋の深部に位置し、正中神経の上層を覆っています。

そのため、円回内筋と同様で緊張状態にあると、直下を通過している正中神経を圧迫することになります。

圧迫される場所は円回内筋症候群とほとんど同じ位置であるため、その障害範囲も同様の場所で起こります。

前骨間神経麻痺で生じるのは運動麻痺のみであり、知覚障害が起こることはありません。

浅指屈筋

手根管症候群

手根管(手根骨と屈筋支帯の間隙)には、正中神経と長母指屈筋腱(1本)、示指から小指の深・浅指屈筋腱(4本ずつ計8本)が通過しています。

手根管症候群は正中神経麻痺を発症する最も多い原因部位で、手根管が様々な原因によって損傷される正中神経障害の総称です。

手掌部での圧迫のため、上位の正中神経支配筋(前骨間神経を含む)に麻痺はなく、掌枝が支配する手掌の母指側2/3の皮膚知覚も正常です。

障害部位は手根部以下の神経支配で、母指球筋枝(反回枝)の支配筋および固有掌側枝神経(母指側3.5本の指の皮膚知覚)が障害されます。

母指球筋の麻痺では、猿手や母指の対立運動が困難といった症状が起こります。

手根管症候群
正中神経の知覚領域|固有掌側指神経と掌枝

肘より上部の外傷の場合

外傷などによって上腕部の正中神経が障害を受けた場合は、障害部以下の支配領域はすべて影響を受けることになります。

リハビリテーション(可逆性麻痺の場合)

まずは神経麻痺を起こしている原因を評価することが第一です。もしも筋肉の過度な緊張に原因がある場合は、原因筋のリラクゼーションや安静を図ります。

手根管症候群の場合、原因は様々ですが、基本的にリハビリでの介入による効果は乏しい場合が多いです。(詳細は手根管症候群のリハビリ治療に記載)

一般的なアプローチ方法については以下に記載していきます。

筋リラクゼーション

正中神経麻痺が円回内筋や浅指屈筋などの緊張が原因で起こっている場合は、そえらの筋肉をリラックスさせることで症状の改善が可能です。

具体的には、軽い圧迫刺激を加えてリリースしたり、軽い筋収縮を反復させるといった方法を使用します。

場合によっては物理療法などを併用して、より効果的に緊張が取り除ける方法を見つけ出して活用していきます。

安静固定

正中神経麻痺の主な原因として、過用による炎症や過緊張といった状態が多く存在するため、まずは手関節の安静固定を行います。

重症度に応じて関節変形を予防するために装具を使用しますが、正中神経麻痺の場合は猿手拘縮を防止するため、母指対立位に固定します。

装着時は、麻痺筋以外の筋力が低下しないように、装着中も日常生活での手の使用を促す必要があります。

基本的にMMT3以上では母指対立位に保持する装具は不要です。

知覚再教育

しびれなどの知覚障害に対しては、知覚再教育のリハビリを実施していきます。

方法としては、知覚異常がある末梢神経領域に対して動的あるいは静的な触圧覚刺激を加え、視覚で確認した後、閉眼でもその状態がわかるように集中していきます。

改善していくに従って、物体認知や素材識別知覚といった難易度の高い課題に移行していきます。

関節可動域運動

関節を動かしても神経その他の損傷部位に影響がない範囲で、他動的な可動域運動を実施していきます。

装具療法や自主運動などを併用しながら、関節変形の予防に努めていきます。正中神経の場合は、とくに母指の運動をしっかりと促すことが大切です。

筋力トレーニング

神経の圧迫や炎症が改善してきたら、低負荷にて筋力トレーニングを開始していきます。MMTのレベルによってアプローチ方法はやや異なります。

基準として、「1」は収縮のみで動きはない、「2」は無重力なら関節運動が可能、「3」は重力に抗して運動が可能、「4」は軽度負荷に抗して運動が可能です。

それぞれの状態に併せて適切な負荷量で筋力強化していきます。

筋力 内容
MMT1 筋収縮をバイオフィードバック療法にて再学習、低周波刺激
MMT2 自動介助運動、低周波刺激
MMT3 自動運動、巧緻動作、低周波刺激
MMT4 抵抗運動、巧緻動作、セラブラスト

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The Author

中尾 浩之

中尾 浩之

1986年生まれの長崎県出身及び在住。理学療法士でブロガー。現在は整形外科クリニックで働いています。詳細はコチラ
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