肩関節疾患のリハビリで知っておきたいこと

まず全体像(鑑別の軸)

  • 腱板損傷:とくに棘上筋腱が好発。外転60–120°での痛み(ペインフルアーク)、夜間痛、挙上での上腕骨頭の上方化が目立ちやすい。

  • 筋・筋膜性肩痛僧帽筋上部・肩甲挙筋・菱形・棘上/棘下などの過緊張。局所の圧痛と再現痛がはっきりし、姿勢・負荷・反復動作で変動。

  • 肩関節周囲炎(五十肩):炎症期は疼痛強く、自動・他動ともにROMが全域で低下(とくに外旋)。筋緊張は二次的で、関節包性の硬さが主因。


① 腱板損傷:原因とアプローチ

典型的な発生機序

  • 肩峰下インピンジメントが背景。
    起点になりやすいのは

    1. 挙上時の外旋不足(上腕骨頭が上方へずれる)

    2. **胸椎後弯(猫背)**で肩甲骨の上方回旋・後傾が出ない

    3. 下方/前方組織の短縮(下関節包や大胸筋・小胸筋)

  • 胸部〜前方筋膜(DFAL/SFAL)のタイトが①②を助長。

評価の要点

  • ペインフルアーク、外旋ラグ、Jobeテスト、H-Kテストなどで腱板・肩峰下の関与を確認。

  • 胸椎伸展・肩甲骨上方回旋/後傾の可動性を必ずセットで評価。

介入(順序が大事)

  1. 胸椎伸展を出す(椅子バックレスト+バンザイ10–15回、痛みゼロで)

  2. 前方軟部組織のリリース(小胸筋・大胸筋、肩前面の組織間)

  3. 肩甲骨の運動学再学習(上方回旋+後傾、下部僧帽筋・前鋸筋の促通)

  4. 外旋位での挙上パターン練習(軽負荷・痛みゼロ域で)
    ※炎症強い時期は等尺+姿勢介入から。過負荷で悪化しやすい。


② 筋・筋膜性肩痛:痛む場所≠原因の場所

よく固まる部位

  • 僧帽筋上部/肩甲挙筋/菱形筋/棘上・棘下など後方(DBAL/SBAL)。

“トランスレーション理論”で読み解く

  • 短縮側と反対側に骨頭がブレる
    例:水平内転で前方痛後方組織の短縮(棘下・小円・後関節包)。
    例:水平外転で後方痛前方組織の短縮(大胸・小胸・前関節包)。

介入の骨子

  • 痛む側を揉む前に“短縮側を伸ばす”

    • 後方短縮:クロスボディストレッチ、必要に応じてスリーパー(痛みゼロで短時間)

    • 前方短縮:大胸・小胸ストレッチ、肩甲骨後傾誘導

  • そのうえで疼痛再現筋のトーンを下げる(持続圧・呼吸合わせ)→肩甲骨リズム再学習


③ 肩関節周囲炎(五十肩):時期別に攻める

典型

  • 前方関節包を中心に強い炎症→拘縮外旋ROMが著減し、他方向も低下。

  • 糖尿病合併では経過が長引きやすい

フェーズ別

  • 炎症期(疼痛優位):過剰ストレッチで増悪しやすい

    • 痛み管理(医師の投薬/注射の相談も)+姿勢・胸椎伸展・肩甲骨リズムの“痛みなし可動”

  • 拘縮期〜回復期前方関節包中心に低負荷長時間の伸張、外旋から順に。

    • 肩甲骨の後傾・外転を同時に出すと可動が伸びやすい。


簡易フローチャート(外来5分)

  1. ROM:外旋/外転/水平内外転(自他動)

  2. 痛みパターン:外転中域痛=腱板/肩峰下 全域硬い=周囲炎 姿勢依存・圧痛再現=筋膜性

  3. 胸椎・肩甲骨:伸展・上方回旋・後傾の出かた
    → まず胸椎伸展+肩甲骨誘導を全例で入れ、その上で病態別ストレッチ/促通を追加。


よくある落とし穴

  • 痛い場所だけ揉む:一時的。**短縮側(反対側)**を先に処理。

  • 炎症期に強引な他動ストレッチ:長期化の原因。痛みゼロで可動入力

  • 胸椎を無視:外旋も上方回旋も出づらく、再発しやすい。


Q&A

Q1. 腱板と周囲炎の見分けが難しいです。
周囲炎は“他動でも硬い”のが核心。腱板は痛みで止まるが他動は比較的出ることが多い。外旋の硬さは両者で出るが、全方向かどうかで判別。

Q2. スリーパー・ストレッチは安全?
後方関節包短縮の症例に限定し、痛みゼロ・短時間肩甲骨固定で。前方組織が短いタイプに行うと前方インピンジを助長。

Q3. まず何から始めれば?
どの病態でも胸椎伸展+肩甲骨後傾/上方回旋の再学習を“痛みゼロ域”で。そこに病態別のストレッチ/促通を重ねるのが失敗しにくい順序。


最終更新:2025-10-08