膝関節に関節可動域制限が起こる原因はなにか

意外かもしれませんが、膝関節は廃用症候群などで拘縮が最も起こりにくい関節のひとつです。

しかしながら、膝関節の可動域制限は臨床でもよく遭遇する障害のひとつであり、治療頻度も非常に多い部位だと思います。

その理由として、セラピストは変形性膝関節症を持つ患者と関わる機会が多いことが挙げられます。

それを踏まえて、制限がどこに起きているかを順を追って解説していきます。

正常な膝関節の可動域

膝関節の可動範囲は0-130度(日本人は正座をするので145度)と言われています。では、なぜ伸展は0度で、屈曲は145度で止まってしまうのでしょうか。

答えを書くと、伸展は骨同士がロッキングされることで、屈曲は下腿と大腿が衝突するためにそこまでしか動きません。

最終域で伝わる感覚をエンドフィールと呼んでおり、骨性の場合は抵抗感もなく突然に動かない感覚が伝わってきます。

それに対して、膝関節屈曲のような軟部組織性では柔らかい抵抗感があり、強く誘導することで若干範囲を広げることもできます。

膝関節に拘縮は起こりにくい

まずは言葉の定義ですが、拘縮は主に、①筋肉、②関節包、③靭帯、④皮膚の短縮によって起こる可逆性の関節可動域制限を指します。

ちなみに、麻痺や痛みなどで筋肉に過度な緊張が起きているために動きを制限している場合は、拘縮には含めないとされることもあります。

もうひとつの制限因子として強直がありますが、こちらは骨や軟骨の変性や癒着などで起こる不可逆性の関節可動域制限を指します。

膝関節の場合は伸展制限がとくに起こりやすいのですが、それは拘縮による制限よりも、骨や軟骨の変性に伴う強直の場合が多いです。

そのため、膝関節は基本的に拘縮しにくいですが、変形性膝関節症によって強直をきたしやすい関節といえるかと思います。

関節可動域制限を考える

正常な膝関節の場合になにが制限因子になるかは前述しましたが、ここを知っておくことは非常に重要になります。

膝関節の伸展を止めるのは骨ですが、それが正常の可動範囲より狭まるときも、やはり骨の影響が大きいことが多いです。

そのため、正常な場合を知っておくことで、制限が起きたときにどこが最も影響しているかを予測しやすくなります。

筋肉が制限因子の場合

筋肉が制限因子である場合は、ゴム性の弾力のあるようなエンドフィールを感じることができます。

膝関節屈曲を制限するのは膝関節伸展に作用する大腿四頭筋であり、伸展を制限するのはハムストリングスや腓腹筋になります。

基本的に筋の短縮や過緊張による制限は、最終域で原因となる筋肉を触診することで強い張りがないかを確認することでわかります。

二関節筋の場合は、膝関節以外を動かすことで制限の度合いの変化をみることでも確かめられます。

例えば、股関節伸展でさらに屈曲制限が強くなる場合は、ハムストリングの中でも二関節筋である大腿直筋の影響が大きいことが予測されます。

膝関節伸展 膝関節屈曲
大腿直筋 半膜様筋
中間広筋 半腱様筋
内側広筋 大腿二頭筋
外側広筋 腓腹筋
膝窩筋

その他の制限因子

拘縮の80%以上は筋・筋膜と関節包の短縮によるものとされていますが、関節包はその位置まで考慮することが必要です。

膝関節を伸展させた場合は膝の後面が伸ばされるので、後方の関節包や皮膚が短縮している可能性が考えられます。(屈曲の場合は前方)

半月板が損傷している症例では、伸展時に半月板の移動が起こらずに、そのまま挟み込まれてロッキングが生じることもあります。

膝窩筋の機能障害や前十字靭帯の損傷例では、膝関節最終伸展の手前で起こるはずの下腿外旋が生じずに、動きを止めてしまうこともあります。

伸展制限因子 屈曲制限因子
後方関節包 前方関節包
半月板 膝蓋下脂肪体
前十字靭帯 膝蓋上包

膝蓋下脂肪体や膝蓋上包は、骨同士の衝突や、大腿四頭筋と大腿骨の摩耗を防止するような働きを有しています。

これらの軟部組織に癒着や線維化が生じると、移動性能が低下して挟み込まれやすくなり、膝関節の制限をきたすことになります。

膝蓋上包と膝蓋下脂肪体|膝関節の可動域制限因子

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The Author

中尾 浩之

中尾 浩之

1986年生まれの長崎県出身及び在住。理学療法士でブロガー。現在は整形外科クリニックで働いています。詳細はコチラ
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