筋肉を鍛える前に拮抗筋を緩める

反復する姿勢や動作パターンにより、ある筋は“優位(過活動)・短縮”し、拮抗側は“延長・弱化”しやすくなります。評価では短縮側を抑制/整える→拮抗筋を即時に使わせるの順序が要点です。

代表的な組み合わせ(臨床で使う早見表)

注:肩甲帯まわりは「挙上/下制」「前方化(プロトラクション)/後退(リトラクション)」「上方回旋/下方回旋」など、面によって拮抗が変わります。下表は臨床で遭遇しやすい“優位パターン⇄機能的に対立しやすい筋群”で整理。

優位/短縮しやすい筋(過活動) 延長/弱化しやすい筋(機能的拮抗)
頸部伸筋群 深層頸屈筋群(頸長筋など)
上部僧帽筋・肩甲挙筋(挙上・下方回旋) 下部僧帽筋・前鋸筋(下制・後傾・上方回旋)
大胸筋(特に鎖骨部)・小胸筋(前肩化・前傾) 中部僧帽筋・菱形筋(肩甲骨後退)+下部僧帽筋・前鋸筋(後傾)
広背筋(過活動で肩内旋/内転優位) 棘下筋・小円筋(肩外旋)+下部僧帽筋・前鋸筋(肩甲帯安定)
脊柱起立筋 腹筋群(腹直筋・内外腹斜筋・腹横筋)
梨状筋(股外旋優位) 中殿筋前部・股内旋筋群
腸腰筋・大腿筋膜張筋(股屈曲・内旋) 大殿筋
ハムストリングス 大腿四頭筋(特に膝伸展制御)
股関節内転筋群 中殿筋(外転)
下腿三頭筋 前脛骨筋群(背屈筋群)

腰椎‐股関節の典型例(運用手順)

  • 例:腸腰筋が短縮/優位 → 大殿筋が延長/弱化

    1. 抑制・モビライゼーション:腸腰筋のストレッチ(トーマステスト位やハーフニーランジ)、TFLのソフトティシュー、前方骨盤傾斜のコーチング修正

    2. 可動域の即時活用大殿筋の収縮学習(ヒップヒンジ、足底圧の後足部シフト、ブリッジで“骨盤後傾→股伸展”を順に)

    3. 機能統合:歩行/スクワットで股伸展終末域まで使わせる(股関節主導、腰椎過伸展を抑止)

ポイント:「緩めて終わり」でも「鍛えて終わり」でもなく、**“緩める→使う→機能に統合”**まで一連で行うと再短縮を防げます。


ポイントまとめ

  • 筋には優位(過活動・短縮)になりやすい筋と、延長・弱化しやすい筋があり、両者は多くの場合、拮抗関係にあります。

  • 例えば腸腰筋が短縮していれば、大殿筋は延長位になりやすく、収縮不全→筋力低下を招きます。

  • このとき「大殿筋が弱い=ただ鍛える」では再現性が低く、原因である腸腰筋の優位/短縮への介入が先です。

  • 反対に「腸腰筋を伸ばしただけ」でも、拮抗筋を可動域いっぱいで使わせないとすぐに再短縮します。

  • よって介入は、①短縮筋を抑制/整える → ②可動域をその場で拮抗筋に使わせる → ③姿勢・動作に統合の順で実施すると効果的です。


よくあるQ&A

Q1. これらのパターンは全員に当てはまりますか?
A. 典型例として頻出しますが、職業・スポーツ・既往で変わります。**個別評価(可動域、筋長、MMT、動作解析)**で確認してください。

Q2. ストレッチは何秒・何回が目安?
A. 目安は30–60秒×2–4セット。直後に拮抗筋の等尺→求心性→遠心性の順で使わせると保持しやすいです。

Q3. トレーニングの順番は?
A. 抑制(モビリゼーション)→アクティベーション→パターン再学習→負荷漸増。短縮筋を抑えた直後に拮抗筋を使うのがコツ。

Q4. 左右差が強いときのコツは?
A. 左右別に処方し、弱い側は回数・セット数を多めに。日常動作(立位・歩行・階段)で荷重側の使い方も修正します。

Q5. 痛みがある場合は?
A. 痛みを増悪させない範囲で行い、炎症徴候や神経症状が疑われる場合は医師評価を優先。**代償(腰椎過伸展・骨盤前傾)**は必ず制御します。


最終更新:2025-10-08