要点サマリー
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拘縮期以降の可動域制限の主因は関節包の縮小(線維化)。主成分はコラーゲン。
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コラーゲンの改変・置換は長期適応(半減期は数百日規模の報告もあり)、1回施術の即時的構造変化は期待しにくい。
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ただし、疼痛抑制・粘弾性のクリープ・筋攣縮の解放・運動制御の改善などにより、その場で可動域が広がることはある(=構造変化とは別要素)。
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改善戦略は、低負荷・反復・長期の蓄積(頻回×継続)+家庭での自動運動が中核。
なぜ「すぐには変わらない」のか(構造の話)
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拘縮期の関節包は、炎症→線維化→肥厚・短縮という器質的変化が進行。
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温熱は痛み・血流・粘性低下に寄与して動きやすくするが、臨床で安全に使う温度・時間ではコラーゲン架橋を即座に解くレベルの改変は困難。
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関節モビライゼーションも同様で、1回で構造を作り替える介入ではない。
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したがって、「頻回×継続」と時間経過が不可欠。
補足:コラーゲン代謝は組織・個体差が大きく、半減期は“300日前後”など幅があります。臨床では長期スパンで計画するのが現実的。
それでも“その場で”変わる理由(機能の話)
即時にROMが伸びるときは、下記の機能的要素が効いています。
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疼痛抑制:ゲート制御、期待・注意の変化、恐怖回避低下
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粘弾性のクリープ/応力弛緩:低負荷・持続で一時的に伸びやすくなる
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筋攣縮の解放:呼吸・等尺→弛緩、求心化で防御性収縮が下がる
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運動制御:肩甲胸郭の貢献や代償の是正で**端範囲の“使い方”**が良くなる
→ “即時効果=構造が治った”ではない点を説明しつつ、**維持手段(ホームエクササイズ)**に必ず接続。
実務プロトコル(目安)
施術日の流れ(拘縮期以降)
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疼痛・攣縮の鎮静:温罨法(安全温度)、呼吸指導、軽い等尺(外旋・下制方向など)
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関節包方向のモビライゼーション:
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低〜中グレードから、最終域近傍は低負荷・長めの保持(LLLD)でクリープ狙い
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痛みを許容量内に(防御誘発は逆効果)
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可動域の“獲得→使用”:
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自動・自動介助(滑車、テーブルスライド、スティック外旋)
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肩甲骨の上方回旋・後傾・外旋の再学習
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セルフ処方の確認:量(日2–3回)、回数(10–15回×2–3セット)、**“痛みは軽度不快まで”**を明確化
週あたり頻度と期間
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外来なら週1–2回+在宅が現実的。
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数週〜数か月単位でROM曲線の漸進を追う(急性期・痛み優位からの移行期を除く)。
在宅メニュー(例)
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外旋自動介助:脇下にタオル、**0–20°**から痛み軽度で往復10–15回
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前方挙上テーブルスライド:骨盤後傾になり過ぎないよう胸郭を保つ
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肩甲骨モーション:壁スクレイプ(前鋸筋)/肋骨に沿った後傾・外旋意識
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温罨法→運動→クールダウンの順序で“動ける窓”を拡げる
効果判定と期待値のすり合わせ
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短期目標:夜間痛・安静時痛の軽減、可動時痛の閾値上昇、端範囲の恐怖低下
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中期目標:外旋・外転の端範囲の微増(例:2–5°/2週など施設基準で)
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長期目標:ADL/仕事動作の再獲得(髪結い、背中手回しなど)
注意すべき“赤旗”
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安静時の強い発赤・腫脹・熱感/夜間持続痛の悪化
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頚椎由来痛、神経症状(しびれ・筋力低下)
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外傷歴や石灰沈着性腱炎の急性増悪が疑われる痛み
→ 医師評価を再依頼し、疼痛優位期は“痛みの窓”を広げる介入へ一時シフト。
まとめ
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構造(コラーゲン)は長期、機能は短期でも動く。
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頻回×継続×低負荷長時間+**“獲得ROMをすぐ使う”**のサイクルが鍵。
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モビライゼーションの価値は即時効果より“積み上げ”にある。ただし即時の可動改善を足場に在宅運動へ橋渡しできれば、治療効果は大きく伸びる。
よくある質問(Q&A)
Q1. 温熱だけでコラーゲンを“その場で”変えられますか?
A. 臨床で安全に使う条件では困難。 ただし痛み軽減と粘性低下で動きやすい窓は作れます。
Q2. モビライゼーションは即時効果がない?
A. 構造的改変は一回で期待しにくいですが、疼痛・攣縮・粘弾性の変化でその場のROM改善は起こり得ます。継続で真価が出ます。
Q3. どのくらいの頻度で通えばいい?
A. 週1–2回+在宅が現実的。数週〜数か月を見越し、二週毎などで客観指標(外旋角など)を追跡。
Q4. どの強さまで伸ばしていい?
A. 軽い張り感〜中等度。痛みで呼吸が止まる強度はNG(防御性収縮で逆効果)。
Q5. 痛みが強い日は?
A. 痛みの窓を広げる介入(温罨法・呼吸・等尺)を優先し、最終域の伸張は回避。痛みが落ち着く期間に可動域拡大を図ります。
最終更新:2025-10-09