概要
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**筋の脂肪変性(脂肪浸潤)**は、筋線維間・筋内に脂肪組織が入り込む病態。長期の不使用(廃用)、神経支配の低下、腱断裂による機械的不活性などが背景になりやすい。
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一度生じると可逆性は低い(難逆性)ため、発生予防と進行抑制が臨床の主眼。
病態のポイント
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使えない期間が長いほど、筋萎縮に加えて脂肪化が進みやすい(ギプス固定、疼痛回避、断裂後の筋の短縮・伸張不足など)。
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拮抗筋の過緊張や関節アライメント不良が続くと、目的筋が**慢性的に“使われない”**状態となり脂肪変性リスクが上がる。
画像診断の勘どころ
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MRI
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T1強調:脂肪は高信号で最も識別しやすい。
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T2強調でも明るく見えることがあるが、**脂肪抑制(FS/STIR)**をかけると脂肪信号は抑えられる。
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記述の例のようにT2像での明瞭な高信号として捉えられることもあるが、脂肪評価はT1やFS併用が基本。
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計量評価:腱板ではGoutallier分類など段階評価が予後の目安(手術成績との関連が知られる)。
好発例と臨床像
腱板(とくに棘下筋・棘上筋)
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断裂や三角筋優位の挙上、肩甲骨の協調性低下で腱板が働かず、脂肪変性+萎縮が進みやすい。
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外旋筋(棘下筋)の低出力は、肩甲上腕リズム破綻と上方偏位→インピンジメントを助長。
腰部多裂筋
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深層線維は椎間レベルの姿勢制御・安定化に寄与。
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フラットバック/長時間屈曲姿勢、疼痛回避で不使用が続くと萎縮・脂肪化が進み、慢性腰痛・椎間板変性の悪循環に。
介入方針:予防と進行抑制(できること/避けること)
1) “使える条件”づくり(疼痛・配列)
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疼痛コントロール:痛み0–3/10で反復可能な窓を確保。
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配列最適化:
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肩:肩甲骨後傾・上方回旋、上腕骨軽外旋バイアスで腱板が働きやすい肢位へ。
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腰:**軽い腰椎前弯(ニュートラル)**を保てる座位(骨盤をやや前傾、胸郭を起こす)。
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2) 低負荷・高頻度の“呼び戻し”
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等尺→短アーク運動→機能的課題の順に。疲労前に止める原則。
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腱板:肘脇タオル挟み等尺外旋→外旋付与の低角度挙上→壁スライド(肩甲骨後傾・上方回旋)。
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多裂筋:腹臥位での穏やかな脊椎セッティング、四つ這いバードドッグ(小可動域)、座位での軽い骨盤前傾-胸郭挙上リセットをこまめに。
3) 拮抗筋の過緊張を“下げる”
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肩前方(小胸筋・肩甲下筋)や腰背部表層(脊柱起立筋表層・ハムなど)の低強度リリース/短時間ストレッチ(30–60秒)→すぐ目的筋の軽い収縮を重ねる(抑制→促通)。
4) 生活・姿勢のミニ介入
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1時間に1回の“数十秒エクササイズ”(頻度>強度)。
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長時間の屈曲・猫背・腕内旋位を分断。
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歩行の再開:痛み管理下で短時間から。腰は歩行で多裂筋が自然賦活されやすい。
5) 避けたいこと
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痛みを我慢した高負荷(翌日悪化→不使用を強化)。
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フォーム崩れでの反復(代償学習)。
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“リリースだけ”や“筋トレだけ”の片寄り(抑制→促通→機能課題のセットで)。
期待値の整理
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脂肪変性は難逆性:完全な戻りは期待しづらいが、出力・持久・協調は十分に改善可能。
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目的は「使える時間を増やす」「代償を減らす」「痛みの悪循環を断つ」こと。
すぐ使えるミニ処方(例)
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腱板:タオル外旋等尺 5秒×10、外旋付与挙上(30–60°)10回×2、壁スライド10回×2(1日数セット)
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前方抑制:小胸筋ストレッチ30秒×2→直後に外旋等尺
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多裂:腹臥位で骨盤軽前傾+下腹部ドローイン10秒×5、バードドッグ小可動域5回×2、座位で胸郭リセット10秒×数回/時
よくある質問(Q&A)
Q1. 脂肪変性は運動で元に戻りますか?
A. 難逆性です。ただし筋力・持久力・協調性は改善可能。痛みの低減と機能向上は十分期待できます。
Q2. どのくらいの頻度でやれば良い?
A. 短時間×高頻度が有効。1時間に数十秒の“呼び戻し”を一日を通して。
Q3. まず何から?
A. 疼痛と配列の整備→等尺の再導入→小可動域の反復。痛みが増えるなら直前の段階に戻す。
Q4. 姿勢はどこを見る?
A. 肩は肩甲骨後傾・上方回旋、腰は軽前弯(ニュートラル)。長時間の屈曲位を避ける。
Q5. 画像で脂肪変性と言われた。運動は意味ある?
A. 意味は大いにあります。 目的は出力の最大化と代償の最小化、再発の抑制。痛みの自己管理力も向上します。
最終更新:2025-10-09


