肩甲下筋(subscapularis)

肩甲下筋の概要

肩甲下筋の起始停止

肩甲下筋は肩甲骨前面(肩甲下窩)から起こり、上腕骨小結節〜小結節稜上部へ付着する腱板(ローテーターカフ)の一員。
主作用は肩関節の内旋
。さらに上部線維は外転を補助, 下部線維は内転を補助します。臨床では筋束の多い下部線維=内転寄与として扱われることが多め。

基本データ

項目 内容
支配神経 肩甲下神経
髄節 C5-6
起始 肩甲骨前面(肩甲下窩)
停止 上腕骨小結節〜小結節稜上部
栄養血管 肩甲下動脈系(胸背動脈・肩甲回旋動脈)、背側肩甲動脈(頸横動脈深枝)など
動作 肩内旋、肢位により内転補助/(高挙上位では前方安定化)
筋体積 319
筋線維長 8.9
有働貢献度 肩内旋:1位:肩甲下筋、2位:大胸筋、3位:広背筋、4位:大円筋

腱板全体の最大発揮張力のモデル比として、肩甲下筋が最大(例:肩甲下53%、棘下22%、棘上14%、小円筋11%という報告)。また内旋群(肩甲下)と外旋群(棘下・小円など)の断面積は概ね拮抗し、同時発揮で肩甲上腕関節の求心位が得られる。

肢位と伸張されやすい筋

肢位 外旋で伸張されやすい 内旋で伸張されやすい
1st 肩甲下筋 上部線維 棘下筋 上部線維
2nd 肩甲下筋 下部線維 棘下筋 下部線維
3rd (※個体差大・要疼痛確認) 小円筋

※3rd外旋は神経血管牽引や前方組織の挟み込みに注意。痛みが出る場合は直ちに中止。

触診方法

  • 腱(停止部):結帯動作(手を腰に回す)で小結節部が前内側に張り出す。ここで肩甲下筋腱に触れる。

  • 筋腹:肩甲骨外側縁から大円筋・広背筋の内側を浅く進入→腋窩側から肩甲骨前面へ触る。
    ※深部には神経・血管が走るため強圧はNG。痛み・しびれが出たら中止。

ストレッチ(選択的に下部線維を狙う)

  • 棒ストレッチ:棒を両手で持ち、肩外旋+水平外転にゆっくり誘導(肩甲骨はわずかに下制・内転)。
    20–30秒×3セット。肩前面に鋭い痛みが出る、しびれる場合は中止。

筋力トレーニング

  • チューブ内旋(0°外転:1st)
    肘を体側に軽く固定、肩甲骨は軽く下制・内転、手だけ回さず前腕全体をドアノブのように回す
    10–12回×2–3セット、ゆっくり3秒引く/3秒戻す。
    ※大胸筋・三角筋前部で“代償”しやすいので胸を張り過ぎない。1stでの内旋のため、上部線維優位に鍛えられる。

トリガーポイント(TP)

  • 主訴肩後方の深部痛+ほぼ例外なく手関節背側の関連痛。外旋・背中に手を回すと悪化。

  • 誘因転倒や不意の牽引/長期不動(固定・脳卒中後)/投球・泳法・テニス等の反復負荷/姿勢不良(巻き肩)

  • 関連記事:肩甲下筋のトリガーポイント完全ガイド

癒着が起こりやすい部位と所見

  • 肩甲下筋腱—肩甲下滑液包:摩擦→滑液包炎→癒着の温床。

  • 肩関節周囲炎では烏口上腕靭帯 × 肩甲下上部棘上筋前部と癒着しやすい。

    • 上部と癒着:下垂位外旋の強い制限

    • 棘上前部と癒着:内転制限が目立つ

  • 手技の要点:層間を**“2枚の紙をはがす”感覚で浅くずらす**→軽い外旋可動域内旋等尺で安定化へ。

関連疾患と臨床メモ

  • 腱板損傷:断裂1位は棘上筋だが、上腕二頭筋長頭腱深層(舌状部)まで含めると肩甲下筋損傷は実は多い

  • 肩関節前方不安定・反復性脱臼:前方支持の要。肩甲下筋の強化+肩後方(後下方関節包・外旋筋群)の柔軟化が基本。

  • 投球障害肩:終末外旋位での遠心負荷に注意。レンジ確保→求心性・等速性→遠心性の順で。

受診の目安(レッドフラッグ):安静時や夜間の強い痛み、急な力が入らない(外旋・挙上不能)、外傷直後の可動不能、発熱・腫脹が続く場合は整形外科へ。


よくある質問(Q&A)

Q. 内旋のトレーニングで胸や肩の前が張ってしまいます。
A. 姿勢の作り直しを。肘は体側固定・肩甲骨は下制内転、肘を引かず前腕だけ回旋。負荷は軽め高回数が無難。

Q. 五十肩で“前が痛い”ときも内旋トレはやるべき?
A. 炎症期は痛みを越えない範囲の等尺収縮にとどめ、可動域は外旋・外転の“痛くない端”で微調整。急な強負荷は悪化要因。

Q. 自宅で安全に鍛える頻度は?
A. 目安は週2–4回。痛みが0–2/10の範囲で10–12回×2–3セット。違和感が末梢へ放散する・夜間痛が出る場合は中止。


最終更新:2025-10-20