野球肩(投球障害肩)のリハビリ治療

野球肩(投球障害肩)の概要

野球肩とは、投球動作の繰り返しによって肩関節の構成組織に障害が起こる総称です。単一のケガではなく、様々な病態が混在することが特徴です。代表的なものに以下があります。

  • 腱板損傷 / 肩峰下滑液包炎:腕を上げる際(外転90°付近など)に痛む、上着の袖を通すときに痛む。肩甲骨と腕の骨の間で組織が挟み込まれる「インピンジメント」などが原因で生じます
  • 上腕二頭筋長頭腱炎:肩の前方(結節間溝部)に圧痛があり、前方で物を持ち上げると痛む。
  • SLAP損傷(上方関節唇損傷):肩の奥の引っ掛かり感、「ガクッ」という脱力感や、頭上での動作時の違和感。投球時に上腕二頭筋長頭腱が関節唇を強く引っ張ることなどで剥離して起こります
  • Little leaguer’s shoulder(上腕骨近位骨端線損傷):成長期の野球少年に見られる、肩の成長軟骨板の疲労骨折です
  • 投球に伴う肩後外側部痛(QLS症候群など):投球のコッキング期やフォロースルー期に、肩の後ろや外側に痛みや張りが出現します

好発年齢は10〜16歳(ピークは15歳前後)で、特に投手に多いため「野球肩」または「投球障害肩」と呼ばれます。主な発症要因は過使用(オーバーユース)誤用(ミスユース)「なぜその部位に負担がかかったのか」という機能的な評価が極めて重要です。


投球フォームと肩にかかる負担

投球動作は大きく6つの時期に分けられます。それぞれの局面で肩関節にかかるストレスが異なり、特定の障害と関連します。

時期
特徴と負担
ワインドアップ
軸足にエネルギーをため込む時期。
早期コッキング
前足が接地するまでの時期。肩は最大水平外転位に向かう。
後期コッキング
前足接地後、肩が最大外旋位(トップ)となる時期。肩前方の組織が引き伸ばされ、後方では関節内インピンジメントが生じやすくなります
加速期(アクセレレーション)
ボールが手を離れるまで。肩や肘に最も大きな負担が加わります。腱板損傷やSLAP損傷が生じやすい局面です
減速期(ディクセレレーション)
リリース後に腕の振りを減速する時期。肩後方の筋肉(棘下筋など)がブレーキをかけるために強く引き伸ばされながら収縮し、過負荷がかかります
フォロースルー
投球終了まで。肩後方の筋肉や靭帯がさらに引き伸ばされます

臨床では、とくに後期コッキング期と加速期でピークストレスが重なりやすく、腱板損傷やSLAP損傷、滑液包炎の主戦場になります。


疾患別の考え方とリハのコツ

① 腱板損傷(特に棘上筋・棘下筋)

  • 特徴:肩甲骨の機能低下(上方回旋不足など)や胸椎の伸展不足があると、上腕骨頭の安定性が失われ、腱板への負荷が増大して損傷に繋がります
  • 初期方針:安静と炎症管理が第一です
  • リハビリ:僧帽筋(中下部)や前鋸筋など肩甲骨を安定させる筋群のトレーニングから始め、「土台」を整えます。その後、痛みのない範囲で腱板(インナーマッスル)の強化へと進めます
  • 目安:疼痛の管理に約1か月、機能強化に約2か月、競技復帰までに3〜6か月を要することが多いです。

② 肩峰下滑液包炎(肩峰下インピンジメント)

  • 特徴:腕を挙げる途中の外転90°付近などで、肩峰の下で滑液包や腱が挟み込まれ、痛みが生じます
  • 方針:肩甲骨の上方回旋を促す前鋸筋や僧帽筋下部の機能改善、胸を張るための胸椎伸展の獲得が必須です。また、肩後方の関節包が硬いと骨頭が前方へ押し出されやすくなるため、後方タイトネスの除去も行います

③ 上腕二頭筋長頭腱炎・SLAP損傷

  • 特徴:後期コッキング期から加速期にかけて、上腕二頭筋長頭腱が関節唇を引っ張る力や、最大外旋時に生じる摩擦で損傷します。長頭腱付着部での関節唇剥離(SLAP損傷)が起きると、不安定感や「ガクッ」とした症状が出ます
  • 方針:肩前方への過度なストレスを防ぐため、肩甲骨の安定化(特に僧帽筋中部・下部線維)と後傾を促すトレーニングが重要です。保存療法が難渋し手術となった場合、完全復帰までには長期間(半年以上)を要することがあります

④ 肩後外側部痛(棘下筋腱炎など)

  • 特徴:減速期からフォロースルー期にかけて、腕の振りにブレーキをかける肩後方の筋群(棘下筋や小円筋など)が過負荷となり発生します
  • 方針:肩甲骨の内転・上方回旋機能が低下していると、後方組織への負担が増大します。肩甲骨周囲筋のトレーニングに加え、股関節や体幹などの下半身をうまく使った「全身連動(手投げの是正)」の獲得が必要です

少年野球の注意点について(リトルリーガーズショルダー)

  • 成長期の骨・軟骨は未成熟であり、投球の繰り返し(投げすぎ)による機械的ストレスや、肩甲帯の筋力不足による過負荷が原因となります
  • 「肩が痛い」「ボールを投げられない」といった痛みの訴えがあれば、即時に投球を中止し、整形外科での画像検査(X線やMRIなど)を受けてください
  • 治療は「投球禁止と安静」による保存療法が基本であり、数ヶ月の投球休止で症状は消失し治癒します
  • 障害を未然に防ぐためにも、保護者や指導者による練習量(投球数と登板間隔)の徹底した管理が不可欠です

リハビリの進め方(共通ロードマップ)

投球障害肩の治療は、医師の診断のもと、病期に合わせた段階的な理学療法が必要です。

1. 痛みのコントロール・炎症管理期

  • 投球の休止、連投の回避。必要に応じてアイシングや物理療法を用いて炎症を抑えます
  • 痛みが最も少ないポジション(肩甲骨面上で軽く腕を挙げた状態など)を保持し、組織を安静にします

2. 機能回復・改善期

  • 可動性の改善:肩後方の組織が硬い(後方タイトネス)状態は投球障害の危険因子になります。スリーパーストレッチやクロスボディストレッチなどで後方の柔軟性を改善し、胸椎の伸展や小胸筋のストレッチも行います。
  • 肩甲胸郭関節の機能改善:肩甲骨の正常な動きを引き出すため、僧帽筋(中下部)、前鋸筋、菱形筋を強化します
  • 腱板機能の再建:痛みのない範囲で、インナーマッスル(腱板)の強化(外旋・内旋・挙上)を低負荷で行います

3. 投球動作の再学習・復帰期

  • 全身連動の獲得:股関節の柔軟性(特に内旋)や体幹機能を高め、下半身の力を上肢へ伝える連動性を高めます
  • 段階的投球復帰(スローイングプログラム):痛みのないことを確認しながら、徐々に距離と強度を上げていきます
    • :シャドーピッチング → ネットスロー(5m) → 短距離キャッチボール(10m〜20m) → 強度アップ(5割〜8割) → マウンドからの投球 → ブルペンでの全力投球
    • ※投球中や翌日に痛み(悪化)がある場合は、プログラムを一段階戻すなど慎重に進めます

野球肩を予防するためのリハビリ・セルフケア

  • 肩後方組織のストレッチ:肩関節の水平内転や内旋の動きを保つためのクロスボディストレッチやスリーパーストレッチ
  • 胸のストレッチと胸椎の可動性維持:肩甲骨が正しい位置で動けるように、小胸筋を伸ばし、背骨(胸椎)の動きを柔らかく保つ。
  • 肩甲骨の安定化トレーニング:僧帽筋下部や前鋸筋を鍛え、肩甲骨の「土台」を安定させる
  • 下肢・体幹のコンディショニング:股関節の柔軟性(内旋・外旋など)や体幹の安定性を維持し、腕の力だけに頼らない投球フォームを身につける

よくある質問(FAQ)

Q. 痛みがあるまま投げてもいいですか?
A. 絶対にダメです。 痛みは組織が損傷しているサイン(NG信号)です。無理をして投げ続けると、腱板の完全断裂や関節唇の深刻な損傷など、重篤な状態(構造的破綻)に進行するリスクが高くなります 。すぐに投球を中止し、数日で改善しなければ医療機関を受診してください。

Q. フォーム修正の前に直すべきことはありますか?
A. 可動性(胸椎・肩甲帯・関節包)の改善と肩甲骨の安定化が先決です。 肩後方の硬さ(タイトネス)や胸椎の硬さなど、「身体の土台」が不十分なままフォームだけを直そうとしても、代償動作が生まれ、結果的に再発の原因となります 。

Q. いつ投球を再開できますか?
A. 日常生活やリハビリでの動作で痛みがなく、必要な身体機能(可動域・筋力・肩甲骨の動きなど)が回復したと医師・理学療法士に判断されたら再開します 。 再開後は、段階的スローイングプログラムに沿って、翌日の痛みの悪化がないかを確認しながら徐々に距離・強度を上げていきます。

Q. 画像検査はいつ受けるべきですか?
A. 投球時に強い痛みを感じた場合、夜間痛が強い場合、数週間リハビリをしても改善が見られない場合、または引っ掛かり感や脱力感がある場合は、早めに整形外科を受診してください。 レントゲンだけでなく、エコー(超音波)やMRI検査によって、腱や関節唇などの軟部組織の損傷状態を正確に評価することが重要です 。


最終更新:2026-08-04